“静と動が交響する”
北と南の2つの顔を持つ平屋の家
やさしい人柄でお洒落なご夫妻と、元気でかわいいお子さま家族の家。
「広がりを持った平屋の家を建てたい」と土地探しからスタート。
北の玄関から続く杉板の壁と飛び石のアプローチ。
南の窓と繋がるウッドデッキから広がる芝生の庭。
2つの顔が互いに豊かな風景となるY邸をレポートしました。
『2023ぐんまの家』優良賞受賞
『第13回太田市景観賞』受賞(令和5年度)
土地探しからスタートしました
J(JO)こんにちは。周りの土地の住宅も建ちましたね。周辺も分譲されて家が建ち並び、すっかり住宅街になりましたね。
Y(お施主様)そうですね。以前の野原だった風景は、跡形もないですね…。購入した土地が道沿いでなく野原の真ん中だったので、最初はどんな家になるのか多少の不安はあったのですが、今は、この敷地に建てて良かったと、日に日に増して思います。
J 一番初めに土地購入を考えていた時も、この地域でしたね。一度目の土地は東西に広がる敷地で、間取りをご自身でも色々と考えていらっしゃった。初めてお会いしたのが、そのタイミングで、広がりのある平屋をご希望でしたね。
Y はい、伸び伸びとした平屋で、ロフトが欲しいとお伝えしました。近くに親が住んでいるので、この地域の雰囲気は知っていましたし、夫婦共働きなので通勤圏内での子育てや、子どもの成長、親の将来的な事も考えると、この付近に住みたいと思って、不動産屋さんに紹介いただきました。
J ええ、良い敷地でしたよね。ですので土地に即して素直に設計し、南面に大きな開口を持つ平屋のプランをご提案しましたが、最終的には地主さんと不動産屋さんの折り合いがつかなかったようで…。
Y そうなんです。残念でしたが、一番初めに希望した土地は購入できず、また土地探しからのリスタートでした。でも、一度目のプランも、こちらの要望がJOさんに伝わっていたので嬉しかったです。「伸びやかな建物にするには、ゆったりとした屋根と、広がりのあるプロポーションが大切」というお話を覚えています。
J 結果的に選ばれたこの敷地ですが、ご希望の地域内で見つけることができて、本当に良かった! どの地域に住むかを決めきれずに選択肢が広がりすぎて、中々選定できない方もいますからね。どこに想いやこだわりを求めるのかも大切なことですよ。
Y 二度目に選んだこの土地を一緒に見てもらった時、初めは一度目のプランのような伸びやかな家ができるのかな?と、ちょっと不安でしたが、「土地感が気に入っていれば、良いプランができますよ」とのお話をいただき、思い切って購入に踏み切りました。
J 奥まった土地ではありましたが、旗竿敷地のデメリットを活かせば、南に開けた良いプランができると直感しました。当然プランニングにおいて、解決すべく要点はありましたが…。大前提として、毎日車で出入りする幅4mの道路をYさんが許容できるかが課題でしたが、「それほど抵抗感ないです」との事でしたので、いけるなと思いました。
Y 他の検討していた土地もJOさんに見てもらいましたし、一度目の土地で設計して頂いたプランを、こちらの想いを汲み取ってくれていることが伝わりましたし、とても気に入っていたので…。あとは、思い切って、この敷地での最高のプランを!と、お任せしました。
北側アプローチ
野原だった敷地
上棟
妊娠・出産も相まっての新築計画
J ところで家づくりを考え始めたのは、どのタイミングでしたか?
Y きっかけは、妊娠でしたね。賃貸アパートに住んでいたので、身籠ってからは、やっぱり生まれてくる子どもに良い環境を与えたいと思いました。
J 打合せを重ねるにつれ、だんだんと大きくなる奥様のお腹を、ご主人様が大事に見守られていたのを覚えております。お子さん、もう2歳になられましたか!ご主人に似てらして、元気で走り回ってかわいい盛りですよね。
Y 夫は娘にメロメロです(笑) 実際、子育ては慣れない事の連続ですが、家の中でも庭でも無邪気に走り回っている姿を見ると、思い切って新居を建てて良かったと心から思います。
J 「子どもの意思を尊重させた子育てをしたい。自立心をもった子どもに成長して欲しい」というのも、打合せの段階でお話いただいた大きな要点の一つでした。ロフトをご要望だったのも、子どもの独立した隠れ家のような場所が欲しいと仰っていましたね。
Y そうですね、まだ2歳なのでロフトまでの階段をゆっくり一歩ずつ上がっていくのを見守っていますが、これからの成長が楽しみです。今、娘の一番のお気に入りは南側の窓台ですね。奥行きがあって広いので、デスクにして絵を描き始めています。外のデッキとの繋がりもあるので、夫の手を引っ張って一緒に庭へ遊びに行っていますよ(笑)
お気に入りの窓台をデスクにして
ロフトにて
ロフトへ続く階段
大きな窓が気持ちいい
J 外のデッキと繋がる南面のこちらの窓。「大きな窓が欲しい」と、ご要望くださった時は、明るく伸びやかなプランになると思いました。
Y JOさんの事務所で打合せした時、テーブルに座ってちょうど外の木が見えるのですが、大きな窓っていいなと思っていました。大きな窓が繋がって奥行きがあり、部屋が見通せるからなのか、開放感と落ち着きを感じました。
J 事前に体感していただけて良かったです。大きな窓を設けても、プライバシーへの配慮が足りないな、という住宅を見かけます。実に勿体ないですね。土地の形状や道路との位置関係をうまく捉えることに注力すれば、太陽の明るさや開放感、春先の心地良い風通しや、庭との一体性など、様々な自然の恩恵を受けられます。
Y ええ、本当ですね。家に帰ってくると、自然とカーテンをバーっと開けたくなりますから。昼間はデッキとの繋がりで、リビングが一層広く感じられます。夜は夜で、子どもが寝静まった後、ゆっくりとテーブルに腰掛けて休んでいると、家に優しく包まれているように感じます。
J それは、設計者としてとても嬉しいことです。ありがとうございます。Y邸のデッキに繋がるこの大きな窓は、掃き出し窓でなく、あえて窓台を設けて床から上げています。窓台が、腰掛けになったり机になるよう奥行きのあるカウンターに仕上げた分、室内は小下がりとなって溜まりができるので、部屋全体に落ち着きをもたらせているのですね。
Y ダイニングチェアに腰掛けて外の庭の緑を見ていると、目線の高さが丁度良くて。いつまでも座っていたくなります(笑)
J いいですね(笑)天井ですが、フラットに続くように計画し、キッチン周りのみ意識して一段下げの天井にしています。これにより、がらんどうにならず、ちょっとしたアクセントが伸びの効果を生んでいます。この相乗効果で南面の開口部がより良く感じるのですね。設計やプランニングって決まったルールではなく、こうしたらこうなるだろうなというイロハがあるので、そのように感じていただけてとても嬉しいです。大工さんが積極的に取り組んでくれたことも、とてもありがたいことでした。
デッキとつながる南面の窓
ウッドデッキにて
キッチンの下り天井がアクセント
家事動線は短くシンプルに
J Yさんご夫妻は共働きとの事で、お二人でも家事がしやすいように計画しました。Y邸はキッチンが特等席ですよ。キッチンに立って、正面にはリビングから南面へ広がるデッキと庭が見え、右サイドは水廻りから寝室まで一気に見渡せます。
Y そうですね。日常の家事がとてもしやすいです。キッチンに立って料理をしながら、隣の脱衣室で洗濯機が回せて、5歩位で物干しができ、乾いた後は隣のクローゼットへ、と一連の流れが、すごくスッキリしていて気持ち良いです。キッチン裏のパントリーと勝手口が繋がっているのも、買い物から直行できて便利ですし、ゴミ出しも楽ですね。
J スッキリさせるのは、別のあるモノを削ぎ落としていくことなので、設計側としては勇気がいるんですよ。気に入ってくださって良かったです! 家事ってやっぱり立ち仕事が多いじゃないですか。仕事から帰って、子どもを見ながら夕ご飯の支度をする。食べ終わったら後片付け。ちょっとした掃除や、洗濯物をしまったり、明日の準備をしたりと、家事は眠りにつくまで地味に続きますからね。できるだけ動線は短くシンプルにしたいものです。ご夫婦にあった家事動線を考えると、キッチンは家の真ん中にあって然りですね。
Y 流しで洗い物をしている、ちょっとした時にも見える庭に癒されます。
J キッチンから見える風景って気持ちいいですよね。
Y 窓の外に緑が見えると季節を感じられて、作る料理への想像力も膨らみますね。
特等席のキッチンで
キッチンから、洗濯干場、寝室までのストレートな家事動線
外部仕上げと緑の庭
Y 北側のエントランスも、みんなのお気に入りの場所です。出掛ける時も帰ってくる時も、玄関から続く杉板の壁と天井、飛び石のアプローチを歩くと、気分が上がりますね。
J 北側の壁は、慎重に意識して設計しました。杉板の赤身板と、飛び石、植栽によってリズムが生まれましたね。外壁は左官仕上げもご提案しましたが、予算的なところと耐久性を視野に入れてガルバリウム鋼板になりました。
Y はい、仕上がりを見た時、杉板にこだわって良かったなと改めて思いました。黒系のシックな仕上がりと杉の風合いが調和して、建物全体が柔らかくなった気がします。
J 軒の天井は、Yさんのご意向を大工さんがしっかりと受け止めてくれて、杉板を張ってくれました。仕上げの木材は、三重県の杉の赤身板を使っています。赤身板は狂いがなく、耐久性や香りも良いです。実は室内の床も同じ赤身板で、板の厚さが30mmと厚いです。一般的な住宅フローリングの倍ですね。大工さんが腕を振るってくれました。
Y 杉は香りもいいですし、床が柔らかいから、娘が素足で走り回っても安心です。自然素材って気持ちいいですよね。自然といえば、庭に芝と木々が植えられてから、見える風景がガラッと変わりました。緑って本当に癒しになるんですね。風に吹かれて揺れる枝や葉が、なんだかほんのりします。
J Y邸は、庭と塀ができて、一体感が強調されましたね。新たな楽器が次々に足されて交響し、オーケストラになったかのようです。この一帯では、Y邸が一番に工事をスタートしたので、北と南の隣地にどんな建物が立つか明らかではなかった。
庭と塀により、そのプライバシーが保たれるよう計画していましたので、その2つの工事もできて良かったですね。
Y 距離があるので気にならないですが、庭の木々が適度なクッションになっていますね。庭師さんも、打ち合わせで色々な木を提案してくれました。
J 大方の植栽のイメージを庭師さんと共有して、建物とのバランスにおいても、しっかり打合せしました。奥様のお好きな白色に合わせて、白い花が咲くソヨゴやヒメシャラなどを提案させていただきました。
Y 色々と配慮してくださり、お値段もリーズナブルにまとまりました。
J 大工さんも、庭師さんも「この夫婦と娘さんのためなら、なんだってやってやるぜ!」と意気込んでいらしたので、こちらも頼もしかったです。
Y そうだったんですね(笑) 後からできる所と、建てる時に先に作った方が良い所を誘導してくださり、ありがとうございます。
J 全体の建築計画のお話ですよね。Y邸の場合は、外壁の杉板にコストの比重を置いた分、収納家具はオープン棚にして、引出しや扉代を削減させ、当初計画していた家具も見合わせるなど、全体予算の中で調整しました。ムダのないよう取捨選択し、大工さんとの連携により実現しました。
北側エントランス
南側の芝生と植栽
夜は天井の間接照明でやさしい光が広がる
東南東に配置した一枚の大壁
J 実は、この土地を最大限に活かすための肝となる部分が、この北側のちょっと斜めになった壁です。設計をまとめる際に、この壁の配置をどのようにするのかが、最大の課題でした。ここを軸と決めた後は、他が綺麗に収まるのは想像できました。
Y 家の中にいると、この北側の壁に窓がなくて、向こう側を感じないので、とっても落ち着くんです。
J 閉ざすところは、しっかり閉ざしました。いかに壁を設けるかも、落ち着いた家を造るためのコツでもありますね。ちょっと壁をずらして風の通りに配慮して、スリット窓を設けました。
Y スリット窓から差し込む西日も、幻想的でキレイですよ。
J 子ども部屋のロフトは、Yさんの思いである子どもの自立心を育むべく、ハシゴでなく階段を設け、高さと広さをとるようにしました。同時に、このロフトの高さの頂点が屋根のデザインへと繋がります。山の裾野が広がるようなイメージの検証を重ねました。
Y 屋根は北側から見ると本当に山の裾野のようですよね。南側から見る外観と全く別の雰囲気で、プレゼンの時からユニークだなと思っていました。
J そうでしたか!実は、プレゼンにあたり、気掛かりだったのは、玄関の配置とシンプルなプランという事でした。
Y えっ、そうなんですか?
J 玄関の位置が道路沿いの入り口から、一番遠くに奥まっているでしょ。実はそこがプランにおいて重要でして、イメージを共有できるよう努めました。玄関の位置で、間取りは大きく変わりますからね。シンプルなプランというのは、裏を返せばインパクトがないと言う方もいる。でも、そのスッキリさが後々の生活に、じわじわと心地よく感じてくるのですよ。
Y シンプルな方が好みだったので良かったです(笑) 色も派手なものよりモノトーン系の方がしっくりきますね。デザインも主張があるものより、きいているなくらいの方が好きですし。
J それは、良かったです(笑) 派手さを求める建築を設計もしますが、こと家づくりにおいては、ベースはシンプルさから生まれる心地よさを大切にしています。Yさんご夫妻はお洒落なので、建物の外観や緑との調和という感性の部分についてのお話にも、スッとご理解を示していただけました。ありがとうございます。
山の裾野のような屋根
玄関入り口まで、少し斜めになっている北側の壁
10年後・20年後は…
J 新居で生活し始めていかがですか、もう慣れましたか?
Y そうですね。すっかり、娘も今の生活に慣れました。
J お子様が日々成長されるにつれて、この庭で四季を感じてくれるのではないかと思うと楽しみですね。南西の一角では、家庭菜園も計画されていますね。
Y きゅうりの苗を植えたら次から次へと穫れていますよ。娘が少し大きくなったら、一緒に色々な野菜を育ててみたいなと思っています。
J いいですね、楽しそうな姿が目に浮かびます。お子様の就学や成長と共に、たくさんの思い出が、お住まいに刻まれていくことでしょう。
Y ええ、色々な生活の変化があるとは思いますが、何年たってもここが私たち家族の安心できる家で良かったな〜と思える住まいでありたいですね。
J こうしてお施主さんの生き生きした新居の生活を拝見すると、新築って、単に希望の家を建てましたという事だけでなく「この地域と新たな関係を築く」という事でもあるんだなと、再認識するんですよ。
Y 戸建てですから、ご近所さんというか、賃貸の時とはやっぱり違いますよね。
J ですよね。ご近所とのお付き合い、町内会での顔合わせや、地域の催しなどに参加したりして、10年、20年と過ごしていくうちに、この地域にすっかり溶け込んだ時のY邸を想像するんですね。そうすると腑に落ちた設計になるというか…。
Y ずいぶん先まで、想像してくださったんですね(笑)
J 設計打合せで、普段どの時間帯に何をして、どんな場所や時間を大切にしているのかなど、ご趣味や好きな事のお話を通して、Yさんご夫妻の老後まで想像しました(笑)
Y 老後まで!ですか(笑)ありがとうございます。お陰様で、趣味部屋はかなり愛着のある空間になりました。愛着といえば、いつも仕事から車で帰ってくる時、曲がり角を曲がって家が見えた時、ホッとするというか心がなごみます。
J そうですか、嬉しい限りです。Yさんのように、住まいに愛着を持つ住まい手が増えていけば、将来的に地域全体の治安がよくなり、街全体の魅力が増すでしょうね。
Y 街の発展には、今後とも期待したいですね。
J 今日は、色々お話しくださって、ありがとうございました。
施工:Re-wood株式会社
https://rewood.co.jp
ご主人様の趣味部屋
ご両親とウッドデッキで